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旅立ち
「おかしいな、ウルバングはどこだ?」
声を殺して泣いていたギルバートは、何者かの声が聞いた。
(あの男の仲間か?…まずい。こっちに来る。)
ギルバートは慌てて隠れた。
「ヴァルボス、あれ!」
どうやら倒れているのに気づいたようだ。
「死んでいる。」
「ゼンスよ、これは好都合だ。」
「分かってる。どのみち手にかけることになっていた命だ。けど…」
「北大陸の獅子と呼ばれたあのウルバングを殺した力は我々の脅威になりかねない、か…。とにかく、ウルバングの死を上のやつらに伝えなければな。どうやらここにはもう用なしのようだしな。」
「そうだね。行こう。」
…足音は遠ざかり、やがて聞こえなくなった。ギルバートはそっと外の様子をうかがったが誰もいない。さっきまで家の中にあったウルバングと呼ばれていた男の姿もない。
「ふう。」
ギルバートはため息をついた。それから、改めて我が家の惨状を目の当たりにした。
悲しみや怒り、恨みや憎しみといった、負の感情がこみ上げてくる。だが、ギルバートは目を閉じ、神経を落ち着かせ、それらを浄化した。もちろん明鏡止水の境地にはまだ到達しなかったが、それでも負の感情に侵されずに済んだ。
(東側から村を出て、まっすぐ進んで森を抜けて、城下町を目指そう。)
そして、ギルバートは惨劇の起きた故郷から旅立っていった。
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