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「もう永遠に止まらなくていいからいっそ何処か遠く、親父の手の届かない所まで連れてってくれよ……オンボロ電車」
間も無く到着してしまう事実から口を突いて零れた泣き言。
負け犬らしいその蚊の鳴く様な声はトンネル内で反響する走行音によって掻き消され――
『その願い、叶えよう』
「……!?」
何の前触れも無く響いた中性的な声音が了承の言葉を紡いだ。
その厳かな声の音源が車内のスピーカーでは無く自身の頭の中だと言う事に気付いた瞬間、空間を吹き抜ける静寂の波。
それが自身を透過したと共に世界は沈黙し、動きを止める。
車輪から伝わる走行の揺れが消失し、申し訳程度に付いていた吊革は垂直ではなく不自然な角度をつけたまま動きを停止。
不安定な輝きを放っていた電灯もその揺らぎを失い、光が生み出す影すら動きを止めていた。
まるで時が止まった様に。
(いや……違う、マジで止まってる……!?)
反射的な動きで腕時計へと目を向け、デジタルの文字盤が一向に動かない事に本能が覚える驚愕。
焦りから携帯を取り落としながらも出して使用してみるも携帯の表記は動かず、それどころか操作を受付けもしない。
「一体何が……、っ!?」
立て続けに起きる超常現象。
それらにただ戸惑うだけの俺を無視して世界は変化を続ける。
全てが停止した静の空間で生まれる動きは緑色光の流動。
足元から噴水の如く噴き出した光の奔流は水の様に飛沫となって砕け、散った粒子は再び集い輝く帯を形成する。
現れた幾本もの帯は多重の螺旋を空間に描き、刻まれる紋様は立体的な幾何学模様。
やがて頭上で縫合された帯の群は球となって俺を中に閉じ込めた。
「なんだよこれっ……!?おい、出せ!出せよ!」
そこまで来て漸く我に帰って包み込む光の壁を叩き、蹴りつけるが壁はびくともしない。
暴れる俺を後目に線と線の隙間に敷き詰められていくアルファベットに良く似た文字群。
読む事は出来ないが、そうして出来上がったものはよくあるファンタジー系のゲームなどでお馴染みの存在と似ていた。
そう、それはまるで――
「魔法……陣、なのか?」
『――――――――――――』
「くっ……あぁぁぁぁぁ!?」
その既視感の正体を口にした瞬間、超密度の高音を伴いながら世界が輝きを増し、
俺の意識は視界と共に眩い閃光によって掻き消された。
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