Act.1 始まりの声

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本来有事の時に開かれるものが今、眼前で開かれている。 そして思いつく『有事』などそう数える程もない以上、頭に浮かぶのは想定の中でも最悪の事態だ。 「まさかいきなり戦争……の様な事にはなりませんよね」 「ならない、って言ったら嘘になるかもな。断言なんて出来んよ。アタシもお前同様戦争を知らん世代だからね」 「一年か、半年か、それとも1ヶ月か。もしかしたら明日にゃ戦争してるかもしれんさ」 まるでなんでもない様に軽い調子で言ってのけてはいるが、影の向こうから響く声音はどこか硬さが混じっていた。 お互い未知の事柄に緊張している。 その事を意識しながら私は自身が何気なく口にした言葉を自分の中で反芻する。 (戦争……か) 先生の言葉通り私は『戦闘』を知っていても『戦争』を言い伝えでしか知らない世代だ。 実際『戦争』と言葉にしてみたけれどイマイチ実感が沸いてこない。 だが、だからこそ漠然とした恐怖がある。 それはこれまでの『戦闘』の経験とこの一年で学び見た前大戦の戦死者に関する知識からのもの。 例え『戦争』を知らなくても『戦いで多くの人が死ぬ』と言う事実。 まだ『戦闘』の経験すら薄い未熟者を怖じ気付かせるにはたったそれだけで十分であり、不安に駆られる自身を鼓舞する為に私は腰に提げる剣へと触れた。 「もしそうなったら戦う覚悟はありますが、出来ればそうじゃない事を祈りたいです」 「相変わらず堅いねお前……でもま、アタシも同じさ。この均衡が続く事を祈ってる」 「それにまだまだ半人前なお前達を戦場に立たせたくはないしな。ぶっちゃけ死なれても責任とか負いたくない」 「……先生も相変わらずですね」 「あたぼーよ。学園一の不良教師のレッテル貼られたアタシなめんな」 「自分でそれ言いますか」 覚悟を語っていた筈が途中で脱線した会話に私は小さく笑い、先生もまた笑う。 ガチガチに緊張していた心にその笑いは有り難く、張り詰めていたモノが少しだけ弛んで詰まっていた息が漏れた。 そうして緊張の張りが声から消えた冗談混じりの言葉に仕切り直しの一呼吸が続き、 「ま、とりあえず『神託』が終わりゃすぐに分かる。それまで待とーー 『あ、ヤバ』 「……待つ必要が無くなったみたいだな」 「……ですね」 神秘的な光景にそぐわない。なんとも間の抜けた不穏な呟きにより会話は打ち切られた。
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