Act.1 始まりの声

12/22
前へ
/28ページ
次へ
(気がついたらここにいた、か。なんだったんだあれ……) 未だに体の芯に残る、なんとも言い表し難い不思議な感覚。 浮遊感にも良く似たそれについて頭を掻いて考えてはみるものの、浮かべた問い掛けの答えは一向に現れはしない。 (手の込んだドッキリってのも無いだろうしな……。そもそもどうやったらあんな非現実的な事出来るんだっつーの) 真っ先に浮かんだどうしようも無い現実逃避に、段々とハッキリして来た意識が容赦なくツッコミを入れる。 一応ベタにも頬をつねってみるが、ただ痛いだけで意識の覚醒を早めただけに終わった。 そして眠気も醒めてきた所で再び状況を確認した俺はとある事実に気付く。 (どうやらホントにただ電車から放り出されたって訳じゃなさそうだ) それは周囲に立つ木々と足元に生える植物が教えてくれた。 目に見える草木。その殆どが自分の知っている自然の景色と一致しないのである。 そしてそれらを見て思い起こされる景色は中学の頃に行った植物園の温室施設。 要するに今立つ場所に群生している植物は日本に生えていない、海外で咲いている様な種類ばかりだったのだ。 「……ちょっとこれはヤバいかもな」 日本の何処であろうと流石にこうも密集して外来種が帰化してるとは思えないし、生えてたとしたらそれはそれで大問題だ。 となれば考え得るのは自分の身が常軌を逸した事態に巻き込まれていると言う事。 ーー本能が薄々気づいていたその事実を思考が認めた事で走る震え。 突然訪れた未知への恐怖感に、足から力が抜けそうになる。 けれど倒れたとしてもどうにもならない。 どうにかなるなら今頃30回位この辺りをのたうち回ってる。 「落ち着けよ、西原周……。ここでビビっててもなんにもならねーぞ」 俺は怯える両脚を平手で打ち、ついでに頬を叩いて自らに渇を入れた。 必要なのは今の境遇を嘆く事じゃなく、とにかく現状を把握してどうやってここから抜け出すかを考える事。 枝葉の隙間から差す朱色からして、これから動ける時間はかなり限られてる。 ならばこう言う時こそ急がば回れ。 思考を冷静にして状況把握の続きをする必要がある。周辺の風景は確認済み。 だったら今度は自分の装備品の確認だ。 そう思って今度は視線を下にして周囲を見ると、担いでいたザックと何故か半分になったスポーツバッグの残骸が目に付いた。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加