Act.1 始まりの声

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「明日もあるしまだ食料はあった方がいいもんな……またスナック菓子だけど」 このままバッグを開けていたら多分やけ食い的な感じで必要以上に食べてしまう。 そう考えて最後に最低限の水で喉を潤して空袋などをザックの中へ。 そうしてなんとか空腹を宥めた俺は木に寄りかかったまま空を仰ぎ、 「……!うわ、何だコレすげぇ。星滅茶苦茶綺麗に見えるなここ」 木立の隙間から見える星々の輝き。 煌びやかな夜空に思わず息を呑む。 視界に広がる星空はそれこそ教科書に載りそうなほど見事な、澱んだ東京の空では間違いなく見れないものだった。 人工的な光源が無いからか月明かりの青白の中にあってもその光は一つ一つハッキリと視認できる。 それはつまりまだ助けを求められる場所が近くに無い事の裏付けでもあったが、惹かれた思考は思い至らない。 「あー……、北極星の探し方とか覚えとけば良かったな。忘れてるわ完全に」 口からはそんな言葉が落ちたがその口調は軽く、顔には無意識の内に笑みが伴っている。 空腹が緩和された事で精神的な余裕が生まれたのだろう。 やっぱ食事は大事だな、と呟きを漏らして俺は暫くの間ボーッとしながら星を眺めた。 独白すら無くなった事で耳に届くのは夜風が震わす木々のざわめきのみ。 静か過ぎる気もするが休息には丁度いい。 大したモノは食べてないが、その静けさは摂取した僅かな栄養やカロリーが体に巡る食休みとなる。 やがてエネルギーが巡った事で精神だけでなく追い詰められていた思考にも生まれる余裕。 そして空っぽにしていた頭の中でふと、沈んでいた疑問が再び鎌首をもたげた。 『その願い、叶えよう』 「なんだったんだろうな……あの声」 脳裏で鮮明に再生される中性的な声音。 あの電車内で聞いた、この現状の根源とも言うべき言葉を今更ながらもう一度考える。 (流石にもうドッキリ云々じゃないのは分かってる。けど……だとしたらあの声は一体誰なんだ?) あの直前、情けない願い事を口にしてそれを叶えるとあの声は言った。 実際俺が今居るのは漏らした願い通りに親父の手の届かないところで多分間違いない。 ……親父どころか未だに人っ子一人会えてないのは流石に問題ではあるが。 しかしそれよりも問題なのはそんな願いをこんな風に叶えられる存在が、自身の知りうる常識の範疇に存在しない事である。
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