Act.1 始まりの声

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裏を返せば常識さえ抜け出してしまえばそれが出来そうな存在は幾つか思い付く。 けれどもそれは空想的な存在ばかりで基本的に漫画やゲームの中の存在の話。 少なくとも歩いている中で見た太陽と月。 ついでにこうして行動できる適温と重力からして場所は違えどここは自分の知る地球のハズ。 しかしそう定義した上で、それでもその空想的なモノを認めるとしたら思い当たる存在は2つだ。 それは、 「魔法使い……または神様でもない限りはフツー無理な芸当だよな、これ」 言って思わず噴き出した。 まさか17歳にもなって大学受験を控えた高校生の口からこんな言葉が出るなんて夢にも思わなかったからだ。 もしもこんな事を真面目に言ってるんだとしたら普通は「妄想も大概にしろ」と一蹴。 もしくは生温かい目で「疲れてるんだな」と見られるのがオチである。 少なくとも友人がそんなものを信じていたら俺は間違いなく後者を取るハズ。 いや……取っていただろう。 「ははっ……ホント、笑え……ーー笑えねぇ」 溢れた笑いはすぐに収束し、自嘲の笑みすら簡単に鳴りを潜めた。 思い返せば電車の中から目が覚めたらここに居た時点で既に常識外の出来事である。 ならそれを起こした存在が常識内に収まる相手である可能性はかなり低い。 なんの前触れもなく意識を失いここにいるなら『超常現象』。自分に『超能力』が芽生えたとも考えられた。 だがあの立体的な魔法陣と確かに聞いた声がその考えを否定する。 Q、じゃあそれをしたのは誰か? A、分からない。 思考が堂々巡りになってるな、と思う。 結局眠たい頭で考えても醒めた頭で考えても結論自体は何も変わらなかった。 一つあの目覚めた時と違うのは最早現状を常識の範疇で考えるの事をやめた事だけ。 そしてその上で願うのはただ一つ。 「とりあえずなんでもいいから、いい加減誰かに会わせてくれよ神様……。俺まだ野垂れ死にたくないぞ」 なるべく前回を再現するべく、俺は消え入りそうな声でぼそりと吐き捨てた。 親父からの解放は望んだが、このままだと三日も保たず干物になって現世から解放されかねない。 流石にそこまでは望んじゃいない。 そうして捨てた言葉は静寂の中。風のざわめきに消えて、 「…………返答なし、か」 願いに応えたあの声音は響かなかった。
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