Act.1 始まりの声

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「はぁ……もう寝るか」 一気にこみ上げた空しさを嘆息として吐き出して明日に備えて寝る準備へ。 と言っても布団代わりのモノもないので精々枕代わりとしてザックを横に寝かすだけ。 なるべくスナック菓子を潰さないよう端に頭を置いて寝転べばそれで終了である。 枕はごわごわ。地面はしっかりした木の根や固めの土の所為で凹凸が酷く、寝心地は最悪だ。 しかしこれ以外にやり様もないのだから不満はぐっと飲み込むしかない。 そして精神肉体双方の疲れからか、そんな劣悪な寝床でもしっかりと睡魔は訪れた。 「ふぁ……。はぁ……お休み」 重くなる瞼を自ら閉じ、欠伸を一つ。 耳に届くのは微かな風鳴りと自分の鼓動。 その静寂の中で誰に対してでもなく習慣としての眠りの言葉を告げ、 「ーー……?」 声に応える僅かな異音が風に混ざった。 それは草野を踏み締める足音。 一瞬何かの聞き間違いかとも思ったが、その後もゆっくりとしたペースで同じ音が森の静けさに刻まれていく。 それも、確実に近付きながら。 「っーーあだっ!いっつ……だ、誰かそこにいるのか!?」 唐突な何かの存在を示す音は自分にとってこれ以上に無い朗報だった。 落ち掛けていた意識は急激な目覚めを迎え、音の方向を見ながら俺は慌てて体を起こす。 その際木の根に足を引っかけた所為でつんのめり頭を木に強打。 衝突がぐわんと頭蓋に響いたけれど耳へと届くあの足音は消えていない。 幻聴などではなかった。 「誰かそこにいるんだろ!?こっちだ!こっち!」 打った額を押さえながらとにかく大声を出して自分の存在を見えない相手に教え続ける。 ようやっと差し込んだ光明にどん底だったテンションはうなぎ昇り。 相手が誰だろうが見つけて貰えさえすればこれからの不安は八割方、一気に解消されるのだ。 このチャンスを逃す手はない。 けれど、 「おーい!返事してくれ!いるんだろ!」 途中から何かがおかしかった。 足音は確かにこっちに向かってる。 けれど何時まで経っても相手は此方の呼び掛けに声一つ挙げない。 植物の件から相手に日本語が通じない可能性は確かにあった。 が、それにしてもここまで反応がないのはおかしい。 そしてもう一つ気になったのは相手が人にしては、刻まれる足音が聞こえた距離に対してやけに多いのである。 それは別に歩調が早いのではなく音から推測した彼我の距離のズレを示していた。
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