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「もしかして……ヤバイの引いちまったか……?」
額からイヤな汗が伝う。
接近と共に音は段々と大きくなり、付随して自らの足裏から伝わる微振動。
それが重量のある生物が刻む、闊歩の地鳴りである事に気付くのにそう時間はかからない。
ーー明らかに人間じゃない。
眉間に皺が寄り、鼓動が早くなる。
無意識の内に足は肩幅で開脚。
落ちた腰は自然な構えの姿勢であり未知からの逃走準備は何時の間にか整っていた。
あと必要なのは逃げ道を照らすものだけ。
その光源は言わずもがな。ザックに仕舞われた電池切れ寸前のスマートフォンのみ。
(もう相手にこっちの位置はバレてる……。なら決めるのはとっととそこにいる奴の正体見て逃げるかどうかだ)
この暗闇の中でも歩き回ってる時点で相手は間違いなく自分よりも夜目が利く奴だ。
その時点でアドバンテージは相手に握られている。それも一方的に。
ならせめて相手の正体を明かして五分とまでは行かなくても少しでも主導権を取り戻す必要があった。
人工的な光を急に当てれば大体の生物は反射的に動きを止める筈である。
その間に相手を見極め、逃げるべき相手なら怯んでる内に逃げ出せばいい。
と言うより選択肢はこれしかなかった。
「すぅ…………はぁ……」
未だ歩調を変えずゆっくりと近付く気配へと視線を向けたまま。なるべく静かにザックから端末を取り出した。
緊張感に乱された息は深呼吸で無理矢理押さえつけ、整える。
そうして汗ばむ五指が握り絞めたスマートフォンを音のする方向へと翳し、
(1……2…………っ、3!)
サイドのライトボタンを長押しした。
心のカウントから追加で1カウントの間を置いて輝きを灯すLEDライト。
強い指向性を持つ光線が暗闇に包まれた森を走り、そして対峙する相手の姿をハッキリと照らし出した。
同時、光の中露わになった存在の正体を見た瞬間に俺の思考は凍結する。
「グァァ……」
「………………冗談だろ」
己の背後に樹木の半分程の大きな影を作り出す巨体。その体長3m近く。
四足歩行をする巨体は丸みを帯びているがそれを支える腕や足はかなりの筋肉質。
突然の眩しさへの不快感からか、口角から漏れる低い唸り声と共に覗いた犬歯は鋭く尖っている。
そして白色光を反射する体毛は孔雀の尾羽の如く鮮明かつ艶やかな青色をしていた。
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