Prelude 抗いの叫び

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『魔族部隊捕捉!数500……700、1000を超えています!』 『狼狽えるな、この程度は想定済みじゃ。聞け、皆の者!』 オペレーターの動揺を一喝の声で掻き消し、少女は声を放つ。 『ここ数日間の防衛戦。勝利の代償として我々は傷付き、命を落とした者達もいた。掛け替えの無い友を失った者も少なくはないだろう』 ケテル全域へと紡がれる少女の声に、俺は胸に掛けた友から託された十字を握り締める。 『妾は彼らの事を名も無き英雄などと言うつもりはない。彼らには1人1人名が在り、妾はその名を胸に刻んでいる』 槍を撫でる銀髪の少女は響く声を目を伏せて静かに耳に入れ、精神を集中させる。 『妾は殉じた者達の為にも戦えなどと言うつもりはない。元より我等の思いは1つで、妾は彼らの意思を継いでいる』 砲を担ぐ少女はぼーっとしたまま声を聞き流し、緑髪の少女は抱えた弓をぎゅっとその身で抱き締める。 『妾はこの世界を脅かす邪悪なる存在を絶対に許さない。どんなに傷付き倒れようと、妾は絶対に奴らに屈伏しない』 赤髪を揺らす女性は空を見据え、徐々に近付く黒の群れに戦斧を持つ手に力を込める。 『これが最後の戦いとなる……皆の者、叫べ己が魂の詩を!』 放たれる締めの言葉に青髪の少女はゆっくりとした動きで己の剣を鞘から引き抜く。 それとほぼ同時、守護天使の声に応える多重の雄叫びが黒に覆われた大気を震撼させた。 響き合う声は全てに抗いの意思を伝える波となり、共振し、反響と共に再び各々の意識へと帰って己の戦意を増幅させる。 『戦闘開始だ!砲撃部隊の攻撃開始後陸戦部隊と空戦部隊は出撃。妾も『イヘイエル』の修復が終わり次第戦線に加わる!』 『砲撃部隊、指定座標への攻撃準備完了。魔砲、何時でも発射可能です!』 『砲撃を許可、撃てぇ!』 命令を受けて戦の始まりを高らかに告げる、砲の放つ轟音。 街を囲む様に配置されたそれらが放つ閃光は大気を灼き、迫る黒点は動きを阻まれる。 大きく散り、集団を断たれ、そして光に呑まれる黒の群れ。 「さて……そろそろ出番だな」 闇を照らす閃光の嵐を眺めていた俺は遠くにあった黒点がその大きさを増してきている事を確認し、腰のホルスターから自身の使う魔導兵装を引き抜いた。 それは黒塗りの装甲によって象られた、大振りのナイフ。 だがその形は本来のものでは無く、真の姿を呼び起こす為に俺はグリップから魔力を込める。
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