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冬の厳しい寒気も通り過ぎ、桜の木に眠っていた春の息吹きが目覚め出す3月の末日。
俺――西原周(サイハラ アマネ)は約2年の間過ごした高校を突然転校する事になった。
理由は単純で、親の転勤。
正直この歳になったら1人暮らしの1つでもさせて欲しいものだが親はそれを認めず、抵抗虚しく転校と転入先が決定。
それによって俺はまた親の都合に振り回され、2年と言う短い間になんとか培ってきた繋がりを失ってしまったのである。
そして今、俺は錆びてガタのきたオンボロ電車に揺られながら転入先の学校がある場所へと向かっていた。
「ったく、ホント勘弁して欲しいよな……」
車窓から広がる田園地帯を眺めながら誰にも聞こえない様な小声で1人ボヤきを落とす。
だがその声に答える人はおらず、そもそも今この車両に乗ってるのは俺1人しかいない。
その事実がこれから自分が行く先がどれだけ田舎なのかを否が応でも意識させ、沈んだ心に更なる重石としてのしかかった。
俺にとって、別に転勤自体は珍しい事でもなんでもない。
物心付いた時から転校を繰り返し、その度作った友人関係が崩されるのも慣れた事。
そして転校した先で薄っぺらな友人関係を作る事も、だ。
しかしそう達観していても、今回の転校だけはどうしても避けたいものがあった。
何しろ転入が高3ならば転校先の滞在期間は実質1年間。
しかも就職するにしろ大学受験をするにしろこの1年間をのんべんだらりと過ごせる奴なんて、まあ極々少数だろう。
それは俺自身にも当てはまる頭の痛い話で、そんな状況で友人を作ろうなんてとてもじゃないが思える訳がない。
「ホントあのクソ親父は、一体何考えてやがんだか……」
車輪の回転音だけが響く車内にまた1つ愚痴をこぼしながら左手を横に置いたザックへ。
その外ポケットから取り出すのは紙封筒に収まった真新しい写真の束である。
それは、一週間前の終業式に比較的仲の良かった奴とお祭り好きな奴等が開いてくれた、所謂『お別れ会』を写した写真。
シーズン柄現像が間に合わないかもしれなかったのだが、クラスメートの尽力によってなんとか出発のギリギリ30分前に俺の元へと届けられたのだ。
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