Act.1 始まりの声

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その後は準備や移動の関係で目まぐるしく動いていた為写真を確認する暇も無く、中身を見るのはこれが初めてである。 もうこの写真に写っている奴等と絡む事も無いんだろうな、と思いながら俺は写真を流し見ていく。 「…………」 自分を囲んで笑っているクラスメート達。 そしてそいつらに囲まれ笑っている自分。 正直俺はクラスメートの事なんてどうとも思っていなかったつもりだったが、どうもその認識は間違いだったらしい。 こうして写真を見ていればその時の様子を鮮明に思い出せるし、やっぱり心の何処かに寂しさを感じているのも事実だ。 そしてその寂しさに併せて心の奥底から静かに鎌首をもたげるのは、原点の違う二つの怒りの感情である。 (俺は一体何時まで親父の都合に振り回され続ければいいんだろうな……) それは此方の事を省みない両親への反感と、親に逆らえない不甲斐ない己への怒り。 無論1度も反抗した事が無い訳じゃない。 寧ろ月数日しか家にいない親父と顔を合わせれば突っかかってばかりいた。 だが親父はそんな俺を歯牙にも掛けず、何時もただ一言を残してまた数週間家を空ける。 『――お前はただ私の言う通りにしていれば良いんだ』 「くそ……勝手言いやがって」 引き出した記憶から脳内で鮮明に再生される親の声音にやるせなくなった俺は持っていた写真をザックの上に放り出し、乱暴に座席へと身を投げ出す。 がらんどうな車内はそんな悪態をそのまま響かせ、続く嘆息を静かに受け止めた。 『青臭い』と切り捨てられたら反論も出来やしないが、そう言われて素直に『はいはい』と頷ける様な年頃でも無い。 自分の意思に関係無く、決められたレールを進む人生。 そんな物など当の昔に嫌気がさしていたが、最後にはその線路に従い動いている自分が俺は本当に大嫌いだった。 では何故最後まで抵抗しきらないのか――?その問の答は自分の中で既に出ている。 (どんなに抵抗した所で最後は涼しい顔の親父に押し切られる……全部無駄なんだよな) 言葉として出ない諦観にまみれた思考に再び溜め息を1つ。 それは父子の力関係から骨の髄まで染み込んだ『勝てない相手』と言う劣等感だ。
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