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4月、潮間少尉は皇州にいた。磯野大尉の率いる《安芸雨》が皇州軍港の造船所に入り、二週間ほどの休みが乗員に与えられたためだ。
朝廷参拝を明日に控え、潮間は何もやる気もせず、皇州の街をぶらぶらとした。色街に繰り出すにはまだ昼前のこの時間には早すぎる。とはいえ天涯孤独の身軽な少尉には帰る実家もない。
「どうしたもんか」
ポツリと呟き、ふと思い出した。馴染みの店が開いているのだった。
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皇州の都大路、玉緑町の中にその店はある。商売の傍ら、万屋めいた事をやっていて表は手代や番頭が廻船問屋と雑貨屋を切り盛りし、そこの裏で居酒屋軽食喫茶店と万能な店を開いているのだった。
《蘇州》の二文字の看板は皇州でも相当の価値がある。大型の樽廻船と檜垣廻船を取り扱い、《南諸》や《武州》の特産品を《皇州》へ運ぶ貿易だけではあきたらず、最近は不可侵領域を突っ切って《遼》との貿易をしているという噂すらある。
普通は厳重注意どころかあれこれ難癖をつけて取り潰しすらあり得るが、それがないあたり、統帥庁や皇室へ袖の下を送っているのだろう。日の出る勢いが止まらないため密貿易をしている可能性は確実だった。
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