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蘇州の表は廻船問屋の受付に雑貨を請け負っている。潮間は裏手に回り、裏の店に向かい、戸を押した。
「おや、これは珍しい。少尉じゃないか、帰ってきたのかい?」
やや暗い店内で新聞を読んでいた小柄な女性が潮間に声をかける。中性的な喋り方が特徴で、暗い店内のランプでは些か分かりづらいが、結構な美人でもある。
「あぁ、まぁな。琳鈴さんや龍鈴も元気そうでなによりだ」
「そうかい。ところでどうだった?《帝国》は攻めてくるかな?」
小柄な女性、紅 琳鈴はそう言いながら豆を惹く。良い香りだった。
「上層部はピリピリしてるよ。そういえば龍鈴は?」
「上で判を押してるよ。今朝、《南諸》から良い豆が届いたんでね。今惹いてるやつさ」
琳鈴が陶器で出来た《蘇》風の湯のみを置いた。この店は皇州でも珍しく、《蘇》や《遼》の国のものが沢山ある。
「こりゃまた………いい味だ」
潮間が豆茶の味を堪能していると、厨房の奥から女が顔を覗かせた。
「琳鈴、いるか………って、おぉ潮間少尉。久々だなぁ、おい」
女は厨房の前に出てきた。長身だ。潮間より頭一つ大きく、人の目をひくであろう金髪。そしてそれに惹かれた男達をにやけさせるほど綺麗な顔立ち。蘇州大番頭、神山龍鈴はそうした女性だった。
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