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「龍鈴も相変わらずだな」
「まぁな、それよか少尉。あんた前線にいたんだろ?どうしてまた。ひょっとして、あれか。クビか」
「違う違う。ただ朝廷から呼ばれたんだ」
朝廷、という言葉にピクリと龍鈴は反応した、高くくくって馬の尻尾のような髪が左右に揺れる。
「一介の少尉をわざわざ………まさか叛乱を企てた訳じゃねえよな」
「そりゃあそうだ。確かに不満はいくらでもあるが、水上勤務をしている奴で不満を抱かない奴はいないよ。新兵とかは特にな」
三十を目前にしてもフネの仕事はキツい。肉体的には勿論、慣れている筈の勤務ですら時折失敗する。無論、不満がなくなることはない。
「ま、確かにな。ウチの水夫も喧しいもんだ………っと琳鈴いいか?」
龍鈴は腕組みをして琳鈴を振り向く。机の前におき、その上に顎を載せて潮間と龍鈴のやり取りを見ていた琳鈴はやや気怠げに応じた。
「まだ居るのかい?あのお嬢さん」
「あぁ、喚いているよ。ちょっと来てくれ」
やれやれと琳鈴は立ち上がった。隣り合うと小柄な琳鈴が更に小さく見える。
「龍鈴。いっそのこと追い出したらどうだ、力づくで。それか脅せばいいだろ?この店は《妖》の巣窟ですとでもな」
《妖》、それは《大和皇国》では極々一般的な存在である。
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