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「面倒な事ですか?」
「無論、そうだ。でなければわざわざ呼びはしないよ」
潮間は心中穏やかではない。転属辞令か、いや違うな。それなら俺にも知らせが来るはずだ。
ならばなんだ?数少ない将校をわざわざ呼び出す理由は。
「来月、我々はこの軍事不可侵海域を離れる。勿論それだけではなく、その足で皇州の御所に向かわなくてはならない。私ときみが。そういう電信が届いた」
「妙ですね。皇室が我々を呼び出す理由がありません」
「確かに。勿論、私達が叛徒である訳もない。きみもな。少尉を呼んだのは私の権限でだ。電信にはそう書いてある」
「それはまた……」
まだ活用されはじめて日が浅い電信を使うということは、海軍本部もよほど火急のものに焦っていたのだろう。普通は本部の伝令部―――妖を使い、天狗か何かが知らせにくるのだが。
「船長は何も知らないのですね」
「まぁな。君が何を知ってるわけでもないだろ?」
「それはそうです。自分だって皇室崇拝の念はあります」
ここで少し説明をする。この国に置いて皇室は絶対的な権勢を持っていない。彼等はとうの昔にこの国を統べる力を手放していた。だが潮間少尉のような平民には皇室は崇拝の対象になる。統べる力は無くとも、彼等皇室はこの国の人々にとってはまさに神と同格なのだった。
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