桐壺

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いくら名残惜しんでも桐壺の更衣の亡骸は火葬されることになりました。 桐壺の更衣の母は、娘と同じ煙となり空へ上り消えてしまいたいと泣きこがれてらっしゃいます。 「空しい亡骸を目の前にして、まだ生きてるようにしか思えないのが辛いのです。いっそうのこと、灰になるのをこの目で確かめて本当に亡くなったのだとひたすら思いましょう。」 と言われたのに泣いて身を揉まれるので、女房たちも介抱しかねて困り果てました。 生前、女御とも呼ばせずに終わったことを、帝は残念に思って、もう一段上の位だけでもと贈られました。 このことで、また桐壺の更衣を憎む妃たちが多いのでした。 その中でもさすがにものの情理をわきまえた人々は、亡き人の顔立ちや姿の優しく美しかったことや、心が穏やかで憎めなかったことを、今更なって思い出すのでした。
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