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「『あれからしばらくは、桐壺の更衣の死は夢を見ているとばかり思い、ただ夢の中をさ迷って茫然としていた。
しかし、だんだん心が静まるにつれて覚めるはずもない現実だったのだと思い知らされた。
耐えれないこの悲しみはどうしたらなだめることが出来るのだろう。それを語り合う相手さえいないのだ。
せめてあなたと話したいので、なんとか内密に宮中へ来て下さらぬだろうか。
若宮が気掛かりで、どんな様子かと心配で可哀相でならんのだ。
何はともあれ、早く来て下さい。』
と、帝は最後まではっきりおっしゃらず、涙でむせ返りながら、人に気が弱いなどと思われないかと人目を気にしていらっしゃるのです。
あまりにも辛そうな帝の言葉をよく聞けないまま退出して来たのです。」
と命婦は帝の手紙を差し上げました。
「涙で見えない有様でありますけども、帝の恐れ多いお言葉を拝見させていただきます。」
と言ってお読みになりました。
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