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   立夏はある土曜日の晩、突然私の部屋を訪れた。  来客を予想していなかった私の部屋は散々な有様だったが、立夏はいつもあちらの部屋でしているように物を片付け、その間に私はフライパンの前に立っていた。  小さな炬燵でテレビを見ながら、私たちはありあわせで作った野菜の煮物とスープを口に運んだ。これは私が初めてで唯一、立夏に余所行きじゃない自分のための料理を食べさせた時間だった。  食べ終わって、私の後にシャワーを使っている立夏を待つ間、いつの間にか彼女が片付けた部屋が、あまりにも普通なのにびっくりしていた。  枕元にあるテレビのリモコン。鏡台の化粧品の並び方。本棚に詰め込まれた文庫本の作家の順番。  たまにこういうことがあった時、私は立夏がちょっと怖くなる。  布団に潜り込んでから夜のニュース番組を見る私は、枕元にリモコンを片付ける人を他に知らない。  彼女は一体、どれだけ私のことを知っているのだろうか。私は何も彼女を知らないというのに。  
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