冬のリッカ

１

　
　それは一つの季節に起きた、必然のような奇跡だった。

　私が彼女に会ったのは、雪が散らつく十一月の末だった。
　たまたま仕事上がりが一緒になった上司と建物を出た時、粉雪混じりの木枯らしが吹き荒ぶ中で、彼女はそこに立っていた。
　真っ黒い髪が肩まで伸びて、それが風で流されてかかった目が、驚くほど大きく丸い。彼女がその瞳で私を見つめ、正面に立って動かない理由を、私はさっぱり理解できなかった。

　だから、隣の上司がするりと彼女の名を口にしたとき、その不思議な響きは唐突で、でも私の中にキンと冷えた音を落とした。
　リッカ。
　その名前を唱えると、心臓の辺りに何の不純物も混じらない雫が落ちる、そんな音が響くのだ。

「加藤さん。……野暮なこと訊きますが、彼女ですか」
「いや、拾った」

　訊くと、加藤は短くそう答えたきりだった。
　私は自ら勤務する会社の前まで女性が来なければならない、その理由を持たせたであろう隣の男を一瞬軽蔑しかけたが、妻でもなければ恋人としてお付き合いしているわけでもなく、妹でも、その辺の友人でもないというのをその一言で察してしまって余計にわからなくなってしまった。