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女性は私とさほど歳は変わらないように見えたが、彼女のその全く無に近い表情は何かを諦めた年増女のものだったし、色の濃い黒目がちな瞳は、何にも染まらない無知な子どものそれだった。
アンバランス。綺麗だけど、ちょっと不気味な人。
こんな人があの、今一良くわからない上司と一緒に暮らしているなんて、世界は妙なことを起こす。
でも逆に、そんなものなのだろうか。
ちょっと他人と違うとか、変わってるってラベルを貼られている人でも、視線を留めるアングルを変えると案外ただの人だったりするものだ。
多数決の好みが違うだけで、月と花とどっちが好きか、それとあんまり変わらない問題だったりするような気がする。
加藤が呼んだ名前に解かれたように、緩く小さく笑みを浮かべて彼女はこちらに歩み寄った。
その表情が、あまりに優しくて普通なのが意外だった。
歳を取りすぎてしまったような表情は、ふと気が付くと消えていた。彼女が時折、顔に吹き付ける空気の冷たさに顔を顰めても、それはむしろ子どものものだった。
手ぶらで、ビルが並ぶ通りをゆっくりと空間を割いて歩いてきたであろう彼女は、とても異質なはずなのに。
誰もそんな彼女に目を留めたりなんかしない。
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