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この冬の間、何度も立夏に会った。
彼女は携帯電話もパソコンも持っていなくて、私をとても驚かせたけれど、会社の前に佇んでいたり、ふとコンビニの前で出会ったり、しまいには加藤に伝言役を頼んで約束を取り付けた。
これにはメモを持たせた彼女じゃなくて、受け取った私が怒られた。ちょっと理不尽だと思う。
住宅街にある小さな可愛いカフェにお茶を飲みに行ったり、周りを恋人たちに囲まれながら、二人でクリスマスのイルミネーションを見て空しさを愚痴ったりした。
加藤の部屋にも時折足を運んでは、奇妙な三人の組み合わせで夕ご飯を食べた。
そのうち私は、冬に似合うのよ、なんて素人なコメントをしながら、赤ワインとパスタの材料を買い込んで訪れることが多くなった。
いつまでもクリスマスのようなメニューを好む私に、立夏はいつも、お礼の言葉を口にして微笑んでくれた。
加藤は、何度文句を言っても結局彼女が私を連れてくるものだから(彼女はいつの間にやら私の家まで探り当てていた)、ため息をここ二か月で全て使い切ったようで、諦めて私が腕を振るったパスタを食べていた。
たまに部屋の奥から自分の白ワインを持ってきて開けてくれた。美味しかった。
立夏の無くした何かをこれ以上知ることはなかった。
仕事はしていなさそうで、社会慣れしていなくて、三十代独身男の部屋に転がり込んでいるにしては、少しも歪な雰囲気がなかった。
立夏という明るい名前には似合わない、白い肌と黒とのモノクロ。ふと何気なく立夏を見ると、そんなわけはないのに、まるで写真の中の人のように思えてしまうことが度々あった。
それに気づいてハッと息を呑んでしまうと、私は大きく一つ頭を振る。
ざんばらになった私の長い髪のカーテンが、視界のぼやけた何かを払いのけて、正しく立夏の存在を見せてくれる。
そのたびに彼女は首を傾げて、私の爆発した髪をそっと撫でて梳いてくれた。
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