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   雪が積もった一月、私は加藤の部屋のキッチンにいた。  その日は立夏もキッチンに入ってきて、手伝ってみたい、と言ったのだ。  住人が二人の時、このキッチンは生きない。というか、二人とも料理を全くしないことを最近知った。 「あなたが作ってくれると、やっぱりね、美味しいの。私もね、加藤さんがいない時にこっそり作ってみようとするんだけれど、いつも失敗してしまう。火が使えないのね、私って」  そう言いながら、彼女は思い切りよく茹でたパスタを一気に私のフライパンに突っ込んでくれた。  オリーブと水菜のオイルパスタだ。ガーリックの香りが堪らない。 「昨日買ってきてもらったワイン、開けようか。加藤さん、本当はあなたのパスタが大好きなんだから」  そう言いながら立夏が微笑むのを見て、あ、いいな、とこの頃よく感じていた。  立夏はきっと、彼がとても好きなんだ。だから大きな目をこんなに細めても可愛いんだ。  顔は、人の心を映す。  外には雪が降っている。まるで神様が世界中の綿花を落としているみたいな、綺麗な綺麗な牡丹雪だ。  ちょっと田舎の、川に囲まれたこの町は、冬は水面から白い煙が立つくらいにものすごく冷える。  今日も寒いね、と鍋の湯気に手をかざしたら、立夏は窓の外を見てぽつりと言った。 「もう少ししたら、春が来るね」  
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