遠い思い出

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あすかは、せっせと私の足の傷を手当した。 ロイとキルトは、銃弾で穴が開いた所を小さく繰り抜いた木で埋めていた。 私は、キルトから距離を保ち宿場のカウンターで夕食を食べた。 いつもなら、この時間は街に来ている同業者と情報交換をしながらの食事だけど、今日はキルトのお蔭で店を開けられなかった。 せっかくの大切な時間を取られてしまって少し腹を立てていた。 「葉月。今日は、すまんな。店が開けられなくてよ」 「ああ、いいよ。ロイのせいじゃない。そこのバカのせいだ」 「俺のことか?」 「あんたじゃなきゃ誰よ」 「葉月?ご機嫌ななめ?」 「あすか、葉月をからかうな」 「はぁい」 私は横目で、キルトの問いかけに答えた。 隣では、あすかが私の機嫌を伺った。 ロイはこの場の空気がこれ以上悪くならないように、あすかを制していた。 しばらく沈黙が続いた後、最初に口を開いたのはロイだった。 「で?キルトは何をしに来たんだ?」 「だから、何も…」 「さっき、知り合いがどうとか言っていたな?」 「ああ。15年前から別れたままになっている人に会いに来たんだ」 「名前は?」 「海斗」 「…!」 「海斗?」 その名前を聞いたロイは私の方を見た。 キルトはその反応が、この街に居ると言うことだと思い再び話し始めた。 「居るんだろ?この前、盗みに入った屋敷に、海斗兄が欲しがっていたえものがあったから頂いてきたんだ。それを渡したくてな」 「何を盗んだ?」 「ダブルリング」 ロイがキルトの話に乗る。 「ダブルリング…付けた者同士が幸せになれるという代物。アダムとイブも付けていたっていうリングか?」 「そう、それだよ。ただ、それを私に来ただけだ」 キルトは私たちの顔を見回しながら得意げに話した。 私は小さく答えた。 「…知らないのか?」 「は?」 キルトの口から発せられた名前は、忘れようもない。 「…」 「葉月。大丈夫か?」 「あ、ああ」 私は体全体が冷たくなるのを感じた。 そしてロイは、青い顔をした私を気遣うように聞いた。 その反面、キルトの声は、久しぶりに会う人に会える喜びからだろうか弾んでいた。 「何だよ~。居るなら会わせてくれよ」 その声とは正反対に、私はテーブルを見つめながら答えた。
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