遠い思い出

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「ロイ…」 「お前のせいじゃない!」 「…」 私は無言で彼の顔を見て頷く。 「で、葉月の死んだ兄さんの変わりに俺が葉月を預かったんだ。まぁ、盗みの腕に関しては俺が教えるまでもなくきっちり、海斗に教わっていたみたいだったから、楽だったさ。稼業を辞めることを勧めたりもしたんだが…意思が固くてな。無理だと、諦めた」 ロイはにっこり笑って私の顔を見た。 「葉月の兄さん…?」 「ああ、海斗は私の兄だ」 少しだけ怒り口調でキルトに返事をした。 それを聞いた彼の表情が急に明るくなった。 「…そうか!お前、あのちび葉月か!」 嬉しそうに私に駆け寄るキルト。 私はなぜ彼が、そんなに喜ぶのか分からない。しかも、ちび葉月とは! 「お、おい…ちび葉月とは…何だ!」 しばらく黙っていたあすかが、私の顔を覗き込んで聞いてきた。 「葉月…知り合い?」 「知らん」 海斗が私の兄だったからどうだというのか… この、キルトとか言う奴やっぱり… 「そっか、ちびの葉月か…分からなかった…」 「だから、ちびとは何だ!」 「そうだよな。15年だもんな。覚えてないよな。お前は小さかったし、海斗兄はお前の事、大事にしてたもんな…俺達、一時期、一緒に盗みをしていたんだぜ?」 「ん?」 「そうだよな…やっぱり覚えてないよな…でも、俺達二つしか年は違わないんだけどな」 大きくため息をついた彼は、私が覚えていないのがよほどショックだったのか頭を抱えて唸っていた。 それをしり目にあすかが目を輝かせながらキルトに近寄る。 「それより、そのダブルリング見せてよ!」 空気を読めないのはもとより、仕入れの時の対象選びで名前に弱いというのはこの事だ。 光りものを想像させる物は、全てあすかの興味の対象になるんだ。 「あっ、その…それが…盗み返された」 「…」 「…」 「…」 その場が凍りついたように冷たい空気が流れた。 「ははははは…情けないよな。いつの間にかなくなっちまってた」 「…」 「…」 「…」 髪の毛を掻きながら苦笑いのキルトをよそに、私たちは、瞬きを繰り返し、ただただ無言で彼を眺めるしかなかった。 その場の空気にしびれを切らして、彼は言った。
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