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バーン!
耳をつんざく音がし、私は思わず目をつぶった。
恐る恐る目を開けてみると大好きな兄が崩れるようにその場に倒れた。
私はここが盗みの現場だという事を忘れ、叫んだ。
「か…海斗兄!!」
「は、は、葉月…大きな声…出すなって言ってるだろ…」
「だって、だって…」
「俺は大丈夫だから。だけど、葉月は逃げるんだ…今すぐこの場を離れるんだ…そして…」
「か、海斗兄…で、でも…」
目の前の兄のお腹からドクドクと流れ出る血を見ることしか出来ない。
精一杯、私に心配をかけまいとし笑っている兄。
小さな私でも兄が助からない事はよく分かった。
それでも、兄を置いてその場を離れる事は出来ないでいた。
「葉月、いいか。ここからすぐに逃げて遠くに行くんだ…だけど、葉月は一人じゃないからな。兄ちゃんがいつも傍にいて…やるから…」
「海斗兄…」
「いつも、傍に居るから…な。ほら、行くんだ」
「海…」
「行け、行くんだ!葉月!…大好きだよ…葉月…」
兄に急かされるように、盗んだ小瓶を胸に抱えてその場を離れた。
離れた所から振り返ると一人の男が兄の前に立っていた。
遠目だけれどはっきりと見えたその顔は…笑っていた。
次の瞬間…
バーン!
静寂の後、声が聞こえてきたような気がする
「ダーク、物はあったのか?」
「いいや」
私は男たちに見つかる前に建物と建物の間の路地に逃げ込んだ。
大きく肩を揺らしながら息をして、目の前の建物の壁を茫然と眺めた。
「海斗…兄…」
小さく呟いたあと、私はあの男の顔を思い出していた。
そして、一瞬だけど笑った男と目があったような気がした。
「ダーク…忘れない。絶対に、忘れないからな…」
気がつくと朝日が昇り始めていた。
まだ薄暗さが残る空を見上げ 兄の顔を思い浮かべていた。
優しくて強くて暖かい兄の笑顔。
切れ長の目を思い切りへの字に曲げて笑う、大好きな兄の顔。
その笑顔に私も笑顔で小さく呼びかけた。
「兄さん…」
兄さんやダークの事を忘れないように、首に掛けた弾丸のネックレスをきつく握り締めて。
同時に太陽の暖かい日差しが私の体を包み込んだ。
一度目を閉じ、気持ちを落ち着けるために大きく息を吐いた。
「葉月、おはよ」
「おはよう、あすか。今日は村に入って行動するからな」
「了解!」
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