盗み

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「すごい。ここに部屋…あるんですね」 「そうですよ。ここに通す人はごく限られています。村人達と私の信用した来客のみです」 「貴重…ですね。ありがとうございます」 あすかはそう言って村長にお礼を言った。 そして、扉の前まで来ると村長は首に掛けていた鍵を取り出し開けてくれた。 部屋に入るとそこは日当たりが良く、明るかった。 部屋を見回すと正面に立派な額に入れられた物が輝いていた。 「これですよ」 村長はそう言って額を案内した。 そこには淡く青色に輝く雨の滴(しずく)がそのままの形で固まったような小さな宝石があった。 これが七色に輝き雨を降らす『女神の涙』。 物の確認は出来た。 あとは… 「これだけ綺麗だったら大変ですよね。警備とか…」 あすかが私の確認したいことの一つを口にした。 「そうですね。警備というと大袈裟かもしれませんが入口は私のこの鍵でしか開ける事ができません。あとは、窓に警備システムを設置しているくらいですね」 「なるほど…」 「ここには本当にごく限られた人しか出入りしませんから厳重なシステムというのはあまりしていないのが現状ですね」 「宝といわれているんですから、警備を強化した方がいいのではないですか?」 「ええ。これだけ大勢の人の耳に入って嬉しいですが、耳に入るという事は盗まれる危険が高くなってしまった訳ですから、今、検討をしているところです」 「そうですよ。検討をして大切にしてくださいね。それにしても、綺麗ですね」 あすかは『女神の涙』といわれるそれをじっと凝視している。 私は入り口でそれを眺めながら歩き出した。 「ここは、とても日当たりがいいですね」 「ええ。村の宝ですから、もっとしっかりとしたところに置いておくのがいいのかもしれませんが、そうなるともったいなくて…」 「もったいない?」 「はい。せっかくの宝をたくさんの人に見てもらいたいというのが本音で、出来れば入り口に飾りたいんですよ。」 「なるほど」
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