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カラーン!
「お帰り。葉月」
「ただいま。ロイ」
カウンターの中から、30歳後半の長身でキリッとした目と鼻筋の通った男性が迎えてくれた。
「あれ?あすかは?」
「市場(いちば)に行った。今度の旅の買い出し」
「いいパートナーじゃないか!」
「まぁね」
「どうだ?いい獲物は見つけたか?」
「あすかが良いと言って仕入れてきたんだ。文句は言えない。頼んでるから」
「あすかの仕入れの腕はまだまだか?」
「そうだね。名前だけで仕入れてきているからな。無意識なんだろうけど…その内にヒットするでしょうよ」
「先の長い話だな」
「気長に待つよ」
グラスを拭いていた手を止め、別のグラスにソーダーを注ぎ私の前のカウンターに置いてくれた。
彼こそが、この街の長となるロイ。
ビクター街の中でロイを知らない者は居ない。
以前はよく幹部ではないかと言われていたが、ただの宿屋の主人。
けど、絶対に逆らえない。
この街のほどんどが彼の知り合いや仕事仲間だったものばかりで作られているからだ。
だから、私たち同業は居心地が良くて住み良い環境なんだ。
私は、一人で小さな街からここにたどり着いて、彼に世話になっていた。
今思えば、ロイはまだ20歳前半のお兄さんだったんだけど、小さかった私にはとても怖いおじさんに見えた。
でも今では家族。
…そう呼べる人だ。
「今度はどこに行くんだ?」
「北。としか決めてない」
「あっはっはっ!いつもの、プランなし旅だな」
「プランなんて、あって無いようなものでしょ」
「違いない!」
片目を閉じながら、ちょっといたずらっぽく笑う彼は、今からでは想像が出来ないほどやり手の盗み屋だった。
でも…
ガタッ!
「ロイ」
「いや、今は上には誰もいねぇはずだが?みんな、出払っちまってるからな」
「そうか。じゃあ…」
私はそう言って金色の長い髪を後頭部に高く束ねた。
「葉月、気をつけろよ」
「ああ。ロイ、外に合図を!」
「分かった」
一階で彼と二人で話をしていると、二階から物音がした。
この時間は、みんな、情報収集で部屋には誰もいない。
確実に誰かが入って来た。
耳を澄ますと足音も聞こえた。
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