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時、真夜中。
深とした冬の夜の森。
ひっそりとした静寂に、時折、梟の鳴く声が響く。人里の光ははるか届かず、ただ月明かりと星空が、白い雪を青白く照らし出していた。
人の支配とは全く無縁な、静かな森だった。
でも、その晩だけはいつもと様子が違うようだった。
何処からか、微かに、幽玄な歌声が聞こえてくるのである。
静かな冬の森に、その声は沁みるように響き渡った。
かごめ かごめ
かごのなかのとりは――
歌声の主は、1人の少女。
森の奥、さる建物の屋根の上。
真っ白な布をまとい、そのえり口からは透き通るように白い肌が覗いている。
綺麗な銀髪を夜風になびかせているそのさまは、まるでおとぎ話の妖精のよう。
いつ いつ でやる
よあけのばんに――
そこは、廃墟。
栄華の時代がとうに過ぎ去り、今はただ朽ち果てるのを待つだけのつちくれ。
崩れ落ち、風化していく土壁。ひび割れ、砂礫に埋もれていく石の土台。黒ずみ、腐食が進んだ木の柱。
徐々に建物としての形を失い、周囲の自然へと帰ろうとしている。
やがて、人々の記憶からも風化していくのだろう。
つるとかめがすべったーー
少女の歌声は、現実と幻想の境を曖昧にしてゆく。そう、まるでおとぎ話の妖精のように。
――うしろのしょうめん、だあれ
「ごきげんね、ずいぶん」
突然、どこからか降りかかったその声に、少女の歌声はふっつりと切れた。
何時の間にか――まるで元々そこにいたかのように、彼女の隣にはもう一人の少女が腰掛けていた。
歌っていた少女と同じく神秘的な居ずまいだが、こちらは容姿が全体的に大人びている。
その顔には、薄っすらと笑みが浮かんでいた。
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