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突然、腕をなにかに強く掴まれた。バランスを失ってすっ転びそうになるのを、なにかにぎゅっと受け止められた。
耳元で息づかいが聞こえる。ネリアだ。
扉が開いた音が響く。
僕は、転んだおかげでちょうど棚の影にすっぽりとかくれていた。
耳が痛くなるような沈黙。
暫く続いたあと、また扉が閉まる音が響いた。
ほぅ、というため息が耳元で聞こえた。
「もう、大丈夫かな……?」
恐る恐る、影から顔を出してみると、誰もいない廊下が広がっているだけだった。
「早くどいてよっ、重いの!」
「あ、ごめん!」
ネリアの怒ったような声に、慌てて立ち上がる。ネリアを下敷きにする形で倒れこんでいたらしい。
「動きが鈍臭い上に助けてもらった人を下敷きにするってどういうことよ、もうっ」
「う……ご、ごめん」
「いいわよ、もう。早くいこ」
ネリアはつっけんどんな口調でそう言うと、とっとと立ち上がって行ってしまった。暗くて顔はよく見えないけど、怒らせてしまったのだろうか。
もやもやした考えを振り切って、僕も慌ててその後をついて行った。
夜風が肌の蒸れた空気をかっさらっていく。息を思いっきり吸い込むと、頭の中がキレイに洗われていくように感じる。
空には満天の星が広がっていた。ひとつひとつがきらきらと煌めいていて、まるで細かいガラスを散りばめたようになっている。ネリアが言った通り、今日は絶好の日和みたいだ。
結局裏口は諦めて、廊下の小窓から外に出た。玄関から西棟側にずれたところだ。狭い窓を一人一人、音を立てないように気を張り詰めて潜り抜けたのだ。
いつもの場所のはずなのに、今日はなぜか、新しい場所にきたかのようにワクワクした気持ちが湧いてくる。
なんだろう。いまなら、この綺麗な星の下でなら、みんなと一緒なら何でもできてしまいそうな気がする。
「競争しようぜ!あのやぐらまで!」
ガイが張り切って声を上げた。ささやき声ではなく、普通の声だ。
「ちょっと、声大きいんじゃ……」
「外に出たら大丈夫だって!いくぜ!」
心配そうなシスカをよそに、ガイは一目散に走って行ってしまった。
足がむずむずする。僕も行かなきゃ。
「まってよ、ガイ!」
走るのがこんなに気持ちいいことだなんて知らなかった。
何も考えず、遠くに見えるやぐらまで、ただひたすらに走った。
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