7章・運命の日、真実の時

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======================= コートを着ていると暑苦しいが、着ていないと肌寒い。もう秋の季節がやってきたのだ。 この世界に来てから、もう半年近く経ったことになる。 元の世界の俺はどういう扱いになっているのだろう。行方不明とか、あるいは帰らぬ人として扱われているかもしれない。心配などしてくれる人は少ないが、その数少ない彼らには申し訳ない。今更ながら、そんな思いがふと過る。 この世界に初めて踏み入れた(現れた、と言った方が近いのかもしれない)時、想像を遥かに超えた事態に、壮絶に泡を食ったのを思い出す。 思わぬ形での再開、自分の立場、目まぐるしく変わる状況。そして、運命を変えられるという可能性。 この半年、この世界に溶け込もうとあくせくする中で、自分がかつて生活していたこの世界を改めて見つめ直してきた。 院長の思慮深さと先見。普段は勝気なリリィの打たれ弱い、感情的な一面。この世界に来なければ知り得なかったことだ。 同時に、運命を変えるため、必死になってこの世界に働きかけてきた。 色々なことがあったが、今思えばあっという間の半年だった。 そして、今日。 運命を決める日が、やってきた。 響いてきたノック音に返事を返す。恐らく相棒だろう。 「よ、準備できた?」 「ああ、まあな」 「院長先生、もうあと少しで出発するって。急いで見送りに行きましょ」 急かす相棒は、旅装のロングコートを羽織っていた。冷えが厳しくなってきたこの頃、早朝の外気を舐めない方がいいかもしれない。 部屋に戻ってロッカーをかき回し、コートを引っつかんで部屋を出た。
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