7章・運命の日、真実の時

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早朝、孤児院の正門前。 色めく木々の落した葉が、風に乗って何処かへと舞って行く。それに付いた朝露が朝焼けの光を捉えて黄金色に輝き、空中を黄金の川が流れるような、どこか幻想的な風景を作り出していた。 「では、いってくるよ」 院長先生は片手で杖を掲げてそう告げた。まるで、どこか散歩に出かけるかのような、何の気負いも感じさせない言葉だった。 その隣で、オーグ先生がどこか据わったような顔つきで頷く。 「……健闘を。僕たちも、留守番ながら応援していますから」 ケインがそんな先生方を真っ直ぐに見つめてそう言った。 「任せとけ。お前と、お前の妹の分まで、きっちり言いのけてきてやるよ。だから留守は頼んだ」 オーグ先生は二カッと笑って答える。 「はい。でも、寮母さんがいるし、グランスさん達もいるから、きっと大丈夫ですよ」 「……そうだな。お2方、こいつらのフォローをお願いします」 普段の大雑把な彼らしくなく、かしこまった様子でこちらに頭を下げるオーグは見ていてちょっと可笑しい。シスカも軽く笑っていた。 「ああ、しっかりやっておく。吊るし上げられないようにして下さいよ」 「はっ、若いのに心配されんでも大丈夫だ。俺だってこれが始めてじゃねえからな」 そりゃ胸張って言う事じゃないですよ、と突っ込むと、彼は豪放に笑った。 「そういえば、リリィを見ませんね。もうそろそろ出発しなければならないのですが……」 腕に付けた精巧な細工の時計を気にしつつ、院長はあたりを見回した。 あ、とケインが何かを思い出したように声を発した。 「あいつ昨日、見送りに行ったら行きたい未練が出るからいかないとかなんとか、言ってましたよ」 「なんだそりゃ。……いや、あいつの性格からしたらそれが賢明かもなあ」 ああ見えて向こう見ずだし、と付け加えるオーグ先生に、 「真っ直ぐなんですよ、彼女は」 院長が薄く笑いながらそういった。 「では、私達はこれで出発します。必ずや朗報を持ち帰りますから、留守番の方を重ねてお願いします」 深々と一礼すると、あっさりと背を向けて歩いて行ってしまった。オーグ先生もすぐにそのあとを追う。 2人の背中を、俺達は見えなくなるまでずっと見送っていた。
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