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「えー、もう行っちゃったんですか!?」
情けない声を張り上げたのは寝巻き姿のナナである。廊下で血相を変えて走ってくるのに遭遇したのだが、布団から出てそのまま部屋を飛び出してきたのが丸わかりないでたちだ。
「ああ、とっくだ」
「えー……なら起こしにきて下さいよ、私今日のために頑張ってきたのに」
しょげたのを通り越して憤っている。寝覚めが良いことで羨ましいが、こちらとしては理不尽甚だしい。
「無茶言うな、そもそも部屋が女子寮だろお前」
「別に来るのがフェリスさんじゃなくても」
「無理に起こしてやることはないっていう先生方の配慮もあったんだよ」
うっと言葉に詰まり、そのまま呻いて頭を抱える。元気なやつだ。
「リリィに起こしてって頼んだのにな、私置いていかれるなんて……」
「そうなの?彼女、見送りにも来なかったけど」
未練がましいぼやきに、シスカは首を傾げる。ちなみに、一月ほど前からリリィとナナは相部屋である。
「あれ、そうなんですか?布団からいなくなってたからてっきり……あ、でもそういえば見送り行かないとか言ってたような」
眠かったからあんまり覚えてなかったんですけど、と慌てて付け加える。
「朝飯の準備でもしてるんだろ。もうそろそろみんな起き出す時間だしな」
言っそばから、廊下の先から子供達の眠たげな声が聞こえてきた。孤児院の、いつもと変わらぬ朝が始まったのだ。
あ、と何かを思い出したようにナナが声を上げた。
「いっけない!私も当番だった!行ってきます!」
言うや否や、彼女はすっ転びそうになりながらも廊下を走り出し、途中で思い出したように早足になった。
あまりにいつも通りの日常だった。
7年前もこうして、孤児院の背後で何が起こっているかなんて、気にもせずに暮らしていたのだ。
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