7章・運命の日、真実の時

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「リリィがいない?」 朝食を食べ終えた後。片付けを適当に子供達に割り振り、朝学習の準備をしている時だった。 「はい、食事当番には来てないし、他の子に聞いても見てないって……」 声を潜めて話すナナは早くも不安がにじみ出ている。 「そういや俺も見てないな……体調崩してトイレとか?」 「そう思って確認してみたんですけど……やっぱりいなくて」 ……何だそれは。 真っ先に誘拐という物騒な単語が思い浮かんだが、こんな山奥の孤児院まで出張するほど人攫いも暇ではないだろう。それに、いないと決めつけるのもまだ早いような。 「まあ、孤児院も広いし、まだ心配するのは早いんじゃないか?一応俺も聞き回ってみるよ」 「そう……ですね。お願いします」 私ももう一回探してきます、とナナは踵を返し、早足で部屋を出て行った。 この時は俺も、どうせすぐに見つかるだろう、程度の軽い気持ちでいた。 まさか、 「まさか、本当に見つからないなんてな」 若干の焦りが含まれた言葉を零したのは、その日の昼前である。 途中で合流したシスカも眉をひそめている。 「この時間になるまで、私達はおろか他の子供達にまで目撃されてないとなると、この建物の中にいるってことはないでしょうね」 ……そうなる。 「ってことは、孤児院の外に出たってことで……まさか本当に誘拐……」 早まるな、と今にも立ち上がりそうなナナを制する。 しかし実際外に出ているのなら、少なくとも半日経っていることになる。うかうかしていると本当にヤバいかもしれない。
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