274人が本棚に入れています
本棚に追加
先生2人に加え、リリィまで抜けた分の穴は相当に大きかった。
当然、彼らがこなすべき区分を俺たちが請け負うことになったのだが、負担量が一気に桁違いになった。
「……ということで、おじいさんとおばあさんは幸せに」
「グランスー!食堂の方人足りないから行ってー!私は幼年組行かなきゃいけないから」
「わかったすぐ行く!……暮らしましとさ、と」
「グランスさん!第二倉庫の鍵って返しました?」
「生徒の前でドタバタ走るな!鍵はケインに預けっぱだ、そこから先は知らん!ついでに奴にあったら窯の修理を頼んでおいてくれ」
「了解です!」
「だから走るなと言っとろうが!」
「ねー先生、次のお話は?」
「あーすまん、先生ちょっとご飯作ってくるから、しばらく」
「えー」
「しばらく静かにしててくれ。約束したぞ!」
半ば言い捨てるような形になりつつ、俺も極限まで急いだ早足で部屋を出、廊下を進む。
時間の猶予は一切ない。孤児院を懐かしむ余裕があった頃が遠く思えるほどである。これが一ヶ月も続くかと思うと卒倒しそうになる。
やる仕事も選んでいられない。幼年組の子守から大工仕事まで、その場にあったことをこなすしかない。流石にガキが苦手だのといった感情はもうないが、それでも苦手なものは苦手だ。
「ちょっとなにこれ目ぇ荒いんですけど!切ったの誰?ちっちゃい子食べられないじゃん!」
7年間、野郎臭い野外食しか作った経験のなかった俺にとって、子供の食事をつくるというのは大変難しい。そのくせ厨房を仕切る女子共は容赦なく非難を飛ばしてくる。
即座に平謝りして鍋に放り込まれる寸前のバラ肉を受け取り、細かく刻み直して鍋にぶち込む。次の野菜刻みは反省を生かしてきっちり切ろうとするが、途中で微塵切りだったことを思い出して叫びたくなった。
最初のコメントを投稿しよう!