7章・運命の日、真実の時

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夜。 子供達を寝かしつけ、明日の用意を済ませた後に残る僅かな時間。 普段なら、ボーッとしたり剣の手入れを簡易に済ませたりしただけで終わってしまうのだが、今日は散歩でもしてみるか、という気分だった。 相棒はまだ部屋に帰ってきていない。明日の食事当番である彼女は、その前日にある程度準備済ませておく必要があるのだ。 とりあえず、部屋の鍵は開けっ放しにしておいて部屋を出る。 こんな山奥で火事にでもなったら一大事ということで、孤児院の照明は必要最低限の場所に魔法照明がついているだけだ。夜はトイレに行くにせよランタンが必要である。 ランタンといっても大したものではなく、油壺とガラス球をくっつけただけのシンプルな仕組みのもの。サイズも小さく照明力が弱いので、性能は俺が持っている携帯用のものの方が良い。足元を照らし出すのに精一杯である。 「……ん」 教室が並ぶ廊下を歩いていると、廊下の奥の方の部屋から僅かな明かりが漏れていた。 この時間帯に使われることはないはずの教室で、よくよく耳を澄ませば会話が聞こえてくる。 もう点呼の時間はとっくに回っているはず、だが。 泥棒、などということは万が一にもないだろうが、それでも念のため、油断せずに足音を殺して近づいてゆく。 声の主は2つ。中々誰のものか判別できない。聞き覚えはあると思うのだが――わかった。 ナナ――現実世界の彼女と、ケインだ。 もう少し近づけば、会話の内容もわかる。わざわざ声を落としてるのに盗み聞きは悪いか、という後ろめたさにちくりと胸が痛んだが、好奇心に勝てずに少しだけでも聞いてみようと、 突然、腰に衝撃。がっちりと抱きつかれ、締め付けられる。
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