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「離せバカ、暑苦しい」
目線を落とすまでもなくシスカだとわかった。
よろけそうになったのを、全身の筋肉を行使してなんとか堪える。
「まーひどい。女の子に抱きつかれてその言い草」
「とにかく離せ。騒ぐな」
「男女の逢瀬を邪魔してしまうから?」
……こいつ、わかってたのか。驚きが素直に顔に出てしまったのが自分でわかる。
「わかってなきゃわざわざ無声音で話さないわよ。私もちょっと気になってね」
「てか逢瀬って、そりゃ違うだろ」
「ん、まあこの世界でなら別人同士だし?どうせなら私達も逢瀬を楽しんじゃう?」
……上目遣いされても、こちらとしてはひたすら反応に困るだけだ。目を逸らしたら負けを認めるようで嫌だが、俺には直視できない。
身を寄せるシスカを何とか引き剥がす。
「意味がわからん。俺はあいつらの話を聞きたいんだ」
「うわ、盗み聞き公言頂きましたー」
「うるさい、お前もそうだろうが」
もうヤケだ。
それに、話を聞こうと思っていたことは本当だ。
部屋の内部へと神経を集中させる。
孤児院の薄い土壁は防音性など皆無で、小さい音声でも楽に拾うことができた。
「……まあ、わかりやすいか。あいつ、すぐに俺のところに寄って来るし」
ケインの声だ。
「……ううん、孤児院ってこう、みんな家族、みたいな感じだから、そこはあんまり他の子と違ってるわけじゃないんだけど。その……私も、子供の頃は孤児院に預けられてたから。そういうのは何となく、感覚というか、それで」
対するナナの口調は、まだどこかたどたどしい。かつて慕っていた兄と、同年代の別人として対面しなければならないのだ。
「普通の感覚」を遥かに超越している。
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