7章・運命の日、真実の時

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「離せバカ、暑苦しい」 目線を落とすまでもなくシスカだとわかった。 よろけそうになったのを、全身の筋肉を行使してなんとか堪える。 「まーひどい。女の子に抱きつかれてその言い草」 「とにかく離せ。騒ぐな」 「男女の逢瀬を邪魔してしまうから?」 ……こいつ、わかってたのか。驚きが素直に顔に出てしまったのが自分でわかる。 「わかってなきゃわざわざ無声音で話さないわよ。私もちょっと気になってね」 「てか逢瀬って、そりゃ違うだろ」 「ん、まあこの世界でなら別人同士だし?どうせなら私達も逢瀬を楽しんじゃう?」 ……上目遣いされても、こちらとしてはひたすら反応に困るだけだ。目を逸らしたら負けを認めるようで嫌だが、俺には直視できない。 身を寄せるシスカを何とか引き剥がす。 「意味がわからん。俺はあいつらの話を聞きたいんだ」 「うわ、盗み聞き公言頂きましたー」 「うるさい、お前もそうだろうが」 もうヤケだ。 それに、話を聞こうと思っていたことは本当だ。 部屋の内部へと神経を集中させる。 孤児院の薄い土壁は防音性など皆無で、小さい音声でも楽に拾うことができた。 「……まあ、わかりやすいか。あいつ、すぐに俺のところに寄って来るし」 ケインの声だ。 「……ううん、孤児院ってこう、みんな家族、みたいな感じだから、そこはあんまり他の子と違ってるわけじゃないんだけど。その……私も、子供の頃は孤児院に預けられてたから。そういうのは何となく、感覚というか、それで」 対するナナの口調は、まだどこかたどたどしい。かつて慕っていた兄と、同年代の別人として対面しなければならないのだ。 「普通の感覚」を遥かに超越している。
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