7章・運命の日、真実の時

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リリィ一行が商都ヴェストリアに到着したという報は、彼らが出発してからちょうど1週間たった頃に伝えられた。 何時ものようにマジックビジョンを通して、である。 しかし街の内部に入れたわけではなく、何やら混み合っているようで、税関の前で待たされているらしい。 『……ということで、すっごく寒いです、今』 コートを着て首を縮こまらせ、顎を首元にうずめている彼女は確かに寒そうだ。 その後ろでは行商人や運送屋、みずほらしい格好の難民と思われる人々までもが、ひしめき合って並んでいた。 「地理的には北に向かっているわけだからな。それに、街が丁度山脈の狭間にあるから、北からの風がそのまま流れてくるんだ」 『へえ、詳しい。旅人の含蓄ってやつですか』 「そんなところだ」 肩をすくめておく。仕事の都合で立ち寄ったことが何度かあったので、そこらの事情はある程度知っている。 「……大分疲れてるね。大丈夫?」 ナナが横から心配そうに尋ねた。 今この場にいるのは俺とこいつの二人だけで、他は子供達の世話に回っている。 「あー、今日は日が登ってからずーっと馬に乗りっぱなしだったからね。もー揺れるのなんの、腰も痛みっぱなしだし」 馬旅を始めてすぐの頃は、彼女は腰の痛みで立ち上がれないほどだった。以来、このやり取りでは乗馬への愚痴が定番になっている。 ぬっと、マジックビジョンの左端から厳つい顔が現れる。オーグ先生だ。 『おう、代わってくれ』 そう言ってリリィを片手であしらう。不満たらたらに口を尖らせるリリィを物ともせず、正面を陣取ってしまった。周囲を憚るように見回した後、低い声で喋り出す。 『というわけで、着いたは着いたんだが、見ての通り税関で待たされてる。南の方でまた戦争があるみたいでな、そこからの避難民がどっとこっちになだれ込んできて、税関が相当混雑しとるらしい。そんな状況だから、こういうのもなるべく避けた方がいいんだが』 そう言って彼は目線で背後を示した。変に目立って絡まれたりしたら面倒だということだろう。 (※既存のページは削除し、新しい文章と差し替えました。すいません)
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