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季節は春。あたしは足元に散らばるいくつもの花弁に目を落とす。
上を見上げれば、満開の桜が日差しを遮るようにして立ち並んでいた。
また一枚、ゆるやかに落ちてきた花びらが鼻先にくっついた。ふるふると顔を振ってそれを払い落とし、大きなあくびを一つ漏らす。
暖かな陽気が心地よく、今にも眠りたい気分だったが、さすがに道の端で熟睡することは阻まれたのでのんびりと家に戻る。
「たまー」
築何十年かは知らないが、お世辞にも綺麗とはいえない木造アパート。彼はその二階に住んでいる。
階段を一段一段上り、お目当ての玄関を見つけて爪先で何度か扉を引っかいた。間があって、扉が開くと困ったような笑顔を浮かべた彼が出迎えてくれる。
「あんまり深く傷つけるなっていつも言ってるだろ。ここ一応賃貸なんだから、怒られちゃうんだぞ、俺が」
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