春の日のプロローグ

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賃貸、というものがなんなのか未だにわからないのだが、どうやらあたしのせいでそれに怒られるらしい。 よくわからない、と鳴いて訴えてみるものの、彼もあたしの言葉はわからないので意思の疎通はできないのだが。 「昨日どこいってたんだよ。あんまり遠くまでふらふらしちゃだめだからな。ここ車の通りけっこう多いんだし、轢かれたりしたらどうするんだよ」 昨日は公園であったご近所さんたちの会合に出席していて、そのまま夜を明かしてしまったので家には戻らなかった。 最近仲のいい友達もできたので、ここ数日そういうことが続いている。彼はそれがご不満なようだ。 『それよりご飯は?』 お腹がすいて彼のお小言どころではなかった。何度か訴えてみるものの、彼はぱたぱたと足音を立てながら室内を行き来している。 そういえばそろそろ学校の時間だったか。鞄に荷物をつめながら何度も時計を確認している。
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