第十一話

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 私の恋人も考えもので、以前は私の自宅の鍵をキヨミに渡していて、勝手に出入りさせていた。いつぞやなどはセックス中に、ふと気付くとキヨミがベッドの横に佇んでいたことさえあった。さすがにこれは迷惑だと恋人に訴え、何とか鍵は返してもらったのだが、以降も勝手にやって来た際居留守を使って誤魔化すと、玄関前で大騒ぎされたことがある。  では、このキヨミと言う女が、一体なんの目的で私に会いに来ているのか……。ここがこの物語の中核となる。  決して直接的に求愛してくることはなかった。私には、私の恋人を一応はたてているように見えていた。    【三】  ある日のことだ。翌日に友人の披露宴に招かれていた私と恋人は、会場に近いという理由から自宅ではなく都内にある私の事務所に泊まり、翌朝揃って出掛けるつもりでいた。私は闇金を生業にしており、荒っぽい債権回収に力を入れていたので、この事務所には常時十人以上の強面を寝泊まりさせていた。  恋人がやってくるまでの間、私の部屋に暇な者を集めて鍋を囲んでいたのだが、一抹の気掛かりはキヨミからの電話を一日無視していたことだった。無論、キヨミがそれを許す筈はなく、宴も酣の頃にやっぱりズカズカ乗り込んで来て、折角の楽しい雰囲気をぶち壊して喚き散らした。 「私を除け者にするなんて、酷すぎる」  これがキヨミの言い分である。  私は仕事の集まりだと言い訳するが、私の恋人と連絡がついているらしく、彼女が此処に来る予定であるのだから言い訳は筋が通らないと詰められた。しかし私が、それならば彼女が此処へ来る理由も知っているだろうから、君の言い分は破綻するだろうと諭すと、キヨミは喚くのをやめ啜り泣きを始めたのだった。  鍋を囲む男達はキヨミとは顔馴染みであったから、口出しはしなかったものの不快をあらわにし、代わりに見知らぬ同行者である運転手を挙って威嚇している。場の雰囲気は修正不能……、そう判断した私はお開きを宣言して、彼等に別室へ行くよう促した。  渋々出ていく彼等は、そこで顔を上げられなくなっている運転手を一々威嚇しながら別室へと移ったのだが、キヨミは運転手に対し 「アンタも出ていきなさいよ!」と、余りにも心無い言葉を吐いた。  躊躇していた運転手だったが、可哀想に、すごすごと狼の群れの中へと入っていく。  皆が去り、部屋で二人きりになると、キヨミは予想通りの行動を取った。いきなり服を脱ぎ始めたのだ。  予めこの行動を想定していた私は、どうせこのまま迫って来るのだろうとタカをくくって小馬鹿にしながら見ていたのだが、次の瞬間キヨミは「キャア、助けて襲われるー」と、完全に予想外の行動に出たのだ。  有り得ない。運転手が部屋を出て、まだ二分と経っていないのにだ。  一体、何を狙っているのか私には判断がつかず、必死に考察しようと頭を回転させるのだが、たった一人だけこのあからさまな狂言に反応した者がいる。 .
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