第十一話

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 ストーカーと呼ばれる人々には、その自覚はないと言われるが、私がこれからお話しする物語の女は、果してどうであったろうか……。皆さんに、その御判断を頂きたい。    【一】  私の恋人の最も親しい友人に、キヨミという女がいる。非常にトラブルの多い女で、時にはとんでもない男と抜き差しならぬ問題に発展することもあり、私は恋人にせがまれて、これまで何度か助っ人になったことがある。度々首を突っ込んでしまったせいで、キヨミも恋人もすっかり私を当てにするようになってしまった。  私の恋人は、どちらかと言えば私よりもキヨミの方が優先順位は高いらしく、常々「キヨミの相談事にのってやって欲しい」と私にせがむ。それを私が放っておくと、キヨミから泣き付かれるらしく、まるで悪いことでもしたかのように問い詰められたりもした。    【二】  『今日もキヨミと出掛けることになった』  そうメールを送ると  『よろしくお願いします』と、返ってきた。  私の恋人が如何に能天気なのかが、お分かり頂けると思う。  毎日午後の五時になると、キヨミは電話で私の所在を尋ねてくる。 「あっ、私だけど今何処にいるの」  嘘をつくのも面倒なので、正直に答えると「じゃあ今から行くね」と、私の都合には一切触れない。そして、一時間もすると何処にだろうとやって来て、私を後部座席へと引っぱり込んで隣に座らせ、ここまで乗って来た車の運転手に命じて都内をあちこちと走り回る。最後には私の自宅へ私を送り届けるのだが、帰宅は何時も真夜中を過ぎる。これがほぼ毎日……。しかも、一年近く続いているのだから甚だ迷惑である。  キヨミは美人ではないがコケティッシュな魅力と言うのだろうか、これまでに随分多くの男を泣かせてきたと聞いている。恐らく、この運転手もそんな男の一人であろう。  それにしても毎日毎日、自分以外の男を追い掛け回す手伝いをするとは、涙ぐましい努力だ。恐らく寝る間もあるまい。と言うのも、当然私にも都合というものがあるから断ることもある。しかしキヨミはお構いなしにやってくるので、時々は嘘をついたり電話を無視したりもする。だが、そんなことをすればキヨミは先ず私の事務所を訪れ、居なければ心当たりを隈無く探し、私の恋人に問い合わせ、しまいには真夜中だろうと朝方だろうと私の自宅にまでやってくるのだ。  こんなキヨミに毎日付き合っているのだから、恐らく勤務時間以外は全てキヨミに捧げているのだろう。キヨミからするとタクシー代わりの所謂運転手君といったところか。しかも無料、無償である。 .
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