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「川添!」
要さんの声が嫌に遠くから聞こえた。
──よかった。無事だったのか。
他人事のように、思う。
「テメ──」
「うるせぇよ。後で遊んでやっから邪魔すんじゃねえぇ!」
視界の端に、再びあの光の矢が見えた。
それによる破壊音が次いで耳に飛び込んでくる。
その間にもオレは唯々諾々と壁を抉り続ける。
「血流操作」
不意に矢による破壊の音が止まった。
「ああぁ?」
怪訝そうなヒズミの低い声を合図にようやく停止し、抵抗する間もなく体は床へと落ちる。
案の定、肉の焼ける臭いがした。
「ア……インツ……?」
アインツが首から血を出し、歪な翼のオブジェを形成していた。
よくは分からないが、あれで矢を止めたらしい。
「へぇ。今のを破るとはな。悪いが舐めてた。謝るぜネーチャン」
「ふん」
翼はアインツの首へと戻り、何事もなかったようにアインツは片足に体重を乗せ、腕を組んだ。
「教師、拓海様を」
「……」
アインツもではあるが、それとは比べ物にならないほどに要さんは満身創痍だった。
あの一発一発がデタラメな魔力で形成されていた矢を無数に受けたのだ。
満身創痍になるのも無理はない。それどころか生きていることがすでに奇跡とすら思えた。
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