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「分かんねぇな」
その体勢のまま視線を宙空に漂わせ、ボヤくように言った。
「何でそんな他人のことで一々過剰に反応すんだ?」
「他人じゃない。父さんも、拓海も、私の家族よ!」
「つまり他人だろ」
何もかもを拒絶するような、低い声。何の感情もない、空っぽの声。
飛鳥の激昂が、そんなヒズミの声に吸い込まれていく。
「血が繋がってるから何だ。一緒に育ったって、それがどうした? それが特別だと誰が決めたよ?」
「そんな──」
飛鳥には答えられなかった。
答えが思い付かなかったのではない。むしろ反論はいくらでもできた。
ただ、言葉にすることがどうしても躊躇われた。
「どうして──?」
口をついて出た言葉は疑問。
そこいらを適当に漂っていたヒズミの視線が飛鳥へ向く。
「──あ」
仮面が一瞬だけ剥がれたような、何の色もない精巧な人形のような気味の悪い目だった。
飛鳥は急に恐ろしくなり、その場にへたりこんでしまう。
先程までの威勢は最早どこにも見当たらない。
「テメェがどんな反応をするのかを試した。すると予想通り、テメェは激昂した。その原理は、もう理解できない」
目を伏せ、らしくもない疲れ果てた姿をさらし、ため息をついた。
「心って……何なんだ?」
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