第十二章─歪みに至るための六つの傷風景─

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「分かんねぇな」 その体勢のまま視線を宙空に漂わせ、ボヤくように言った。 「何でそんな他人のことで一々過剰に反応すんだ?」 「他人じゃない。父さんも、拓海も、私の家族よ!」 「つまり他人だろ」 何もかもを拒絶するような、低い声。何の感情もない、空っぽの声。 飛鳥の激昂が、そんなヒズミの声に吸い込まれていく。 「血が繋がってるから何だ。一緒に育ったって、それがどうした? それが特別だと誰が決めたよ?」 「そんな──」 飛鳥には答えられなかった。 答えが思い付かなかったのではない。むしろ反論はいくらでもできた。 ただ、言葉にすることがどうしても躊躇われた。 「どうして──?」 口をついて出た言葉は疑問。 そこいらを適当に漂っていたヒズミの視線が飛鳥へ向く。 「──あ」 仮面が一瞬だけ剥がれたような、何の色もない精巧な人形のような気味の悪い目だった。 飛鳥は急に恐ろしくなり、その場にへたりこんでしまう。 先程までの威勢は最早どこにも見当たらない。 「テメェがどんな反応をするのかを試した。すると予想通り、テメェは激昂した。その原理は、もう理解できない」 目を伏せ、らしくもない疲れ果てた姿をさらし、ため息をついた。 「心って……何なんだ?」
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