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「さてと、どうしたもんか」
これは夢のようなものだ。
今までに何度も経験があるために、分かっている。
ここでの時間の経過と現実の時間の経過は同じではない。
なので、現実に帰還すればその瞬間に死んでしまってもおかしくはない。
理由は分からないが、そう思うと好都合に思える。
「……こんにちは」
不意に、聞き覚えのある声が聞こえた。
意表をつかれて動揺してしまい、弾けるように立ち上がった。
目の前に、いつの間にか、見覚えのある女性の姿があった。
振り袖。しかし腹の部分がなく、ヘソが丸出し。奇妙だがどこか美しくもあるその出で立ちの人物を、オレは一人しか知らない。
顔など見なくとも、他に名前など出てきはしない。
「里……桜さん……?」
川添里桜。
オレの前に天使の歌を宿していた女性であり、オレのために消えた──はずの女性。
二度と会えないはずの恩人が、今、目の前に立っていた。
「こちらです」
里桜さんはクルリと身を翻し、背中を向けた。
そして、歩き出した。
「ま──ちょっと待って!」
慌てて走り出し、その後を追う。
急に、白一色だったはずの空間に色が加わる。
「は……は?」
変わっていく景色に気を取られていると、目の前から里桜さんの姿はどこかへと消えてしまっていた。
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