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「ママ。パパはどうしてボクを捨てたの?」
「──」
絶句した。
いや、子供だしね。
分かってはいるよ?
あのヒズミがママって、パパって、ボクって!
そうこう余計なことを考えていると女性はその表情を一層深くさせた。
「パパは兵隊さんなの。今あっちではみんな喧嘩していてね、パパは仲直りさせようと頑張ってるの。捨てたわけじゃないわ」
優しくそう言い聞かせ、女性はため息を溢した。
「いつかきっと、必ず迎えに来てくれる」
疲れ果てたような声だった。
『迎えに来てくれる』
その言葉は酷く機械的で心にもない。そんな気がした。
──にしても、兵隊か。
見たところここは人界のようだ。ならばパパとやらが魔族なのだろう。
戦争が起こっている様子もないため、喧嘩とは魔界の内紛か何か……と言ったところか。
「ママ。どうしてボクはこんなに嫌われてるの? 今日だって、仲間に入れてって言っただけなのに叩かれた。石を投げられた。追いかけられた。こんなの嫌だよ」
「……」
女性は──答えない。
俯いてしまい、その表情は読み取れない。
ただ、危ない雰囲気を敏感に肌が感じ取っていた。
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