第十二章─歪みに至るための六つの傷風景─

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見たところ、女性の体にも痣や生傷があった。 親子揃って傷だらけ。 痩せ細り、窶れている。 村外れの廃墟。 備えがあるようには見えない。 ──迫害。 見ているオレの方の気が触れてしまいそうなほど、凄惨なものである。 「────」 吐きそうになる。 こんなのは嘘だ。 こんな現実があっていいはずがない。 頭の中に形容しがたい何かが音を立てて降り積もっていく。 「……」 ヒズミは泣き疲れて眠ってしまった。 女性はヒズミを横にさせると、フラフラと立ち上がった。 「……はぁ」 額に手を当て、本当に困り果てたように嘆息する。 そこに、何か危険なものが見え隠れする。 それが手首に走る無数の傷であることに気が付いた。 「リストカット……!」 メジャーな自殺の方法の一つ。 しかも傷は真新しい。 しかし──躊躇い傷だったか──深いものは一つもない。 ──それはいい。 未遂だろうが何だろうが、この人はヒズミを残して死のうとしたということ。 さっきから肌を刺激する危うさの正体はそれだ。 この後にどんなことが起こるのかを、いくつかの可能性を考えてしまう。 ──景色が変わった。
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