第十二章─歪みに至るための六つの傷風景─

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しかしその精悍な顔付きの男性は醜く顔を歪め、鎖でがんじからめにされた実の息子を睨み付けた。 「貴様のおかげで、軍で築き上げてきたオレの地位は崩れ去ってしまった。禁を破ったことが知られてしまった」 憎悪を見せつける。 しかしその奥には、打算も見える。 「だがまだ希望はある。貴様がオレを父と慕うのであれば、オレの武器になれ」 「武器?」 「あの村を一つ滅ぼした力、オレのために使え。貴様さえいれば、またオレはのし上がれるのだ」 「もちろんだよ。パパのためなら、ボク、何だってするよ」 「良い子だ」 ──こんな気味の悪い会話を、これまで聞いたことがない。 つまり父親はヒズミを武器として利用しようとしており、ヒズミは父親にすがっているのである。 こんなにも噛み合わないものなのか? これが本当に血の繋がった家族の会話なのか? ヒズミは釈放された。 男の命じるままに戦地に赴き、そして殺戮を繰り返した。 結果、内戦続きだった当時の魔界を瞬く間に統一してしまった。 男は英雄と呼ばれた。 財産も地位も得た。私腹を肥やした。 そしてヒズミはみすぼらしい服を着せられ、いつも空腹と戦い、地下牢に監禁されていた。 母親と暮らしていた時以上に、ヒズミは痩せ細ってしまっていた。
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