第十二章─歪みに至るための六つの傷風景─

17/49
前へ
/499ページ
次へ
「な──何なんだよこれは!」 見ていられない。 見たくもない。 ヒズミの過去に何があったのか、オレはその骨組みだけを知っていた。 そこにどんどん肉付けされていく。 その肉は──余すことなく腐り果てている。 逃げ出したい。 見ているだけなのに、耐えられない。 地下牢に閉じ込められ、その隅で膝を抱えている少年。 真っ黒だった髪はストレスで多く白が混じってきている。 まだ成人にも達していないどころか、その半分にも満たない子供がだ。 「こんなの……こんなものを見せるな!」 オレはヒズミから目を逸らした。 「いいえ。あなたはこれを見なくてはいけない」 不意に里桜さんが現れる。 オレは耐えきれずに里桜さんを睨み、怒鳴った。 「知るか! こんなもの、オレは──」 言葉が出てこない。 思い返せば、そのぶん顔から血の気が引いていくのが分かる。 「目を逸らしてはいけません」 里桜さんは、言った。 「これから起こることは彼を歪めた六つの傷、その初めの一つ」 「六つの傷……?」 里桜さんは小さく頷き、歌うような静かな声で短く告げた。 「家族に対する価値観の崩壊」
/499ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6151人が本棚に入れています
本棚に追加