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里桜さんが姿を消した。
それと入れ違いに誰かが階段を降りてくる足音が地下に反響する。
ヒズミはゆっくりと顔を上げ、落ち窪んだ目でその人物を認める。
足音は牢の前で止まった。
「ふん。何と穢らわしい姿だ」
ヒズミは弱々しくも確かに嬉しそうに頬を緩めた。
「パパ、会いに来てくれたの?」
「ああそうだ。ここには貴様しかいない。それ以外に地下に降りる理由がない」
「ははぁ。嬉しいよ。ねぇ、ボク、お腹空いた」
男は牢に鍵を差し込み、開いた。
ギィと、錆び付いた金属が軋む嫌な音がした。
男は入り口を潜り、隅のヒズミを目を細めて見下す。
とても冷たい目をしている。
「貴様には感謝している。貴様の存在が発覚した時には地方に飛ばされ、貴様の面倒も押し付けられたが、まぁそれはいい。おかげで私の地位は大臣にも匹敵するほどになれたでな」
「あは。嬉しいな。パパの役に立てたんなら、凄く嬉しい」
消え入りそうな声。
満足に動かない体を無理に動かし、父の顔を見上げる。
精悍な顔を私欲に歪ませた、その醜い顔を。
「ねぇ。お腹が空いたよ、パパ」
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