第十二章─歪みに至るための六つの傷風景─

18/49
前へ
/499ページ
次へ
里桜さんが姿を消した。 それと入れ違いに誰かが階段を降りてくる足音が地下に反響する。 ヒズミはゆっくりと顔を上げ、落ち窪んだ目でその人物を認める。 足音は牢の前で止まった。 「ふん。何と穢らわしい姿だ」 ヒズミは弱々しくも確かに嬉しそうに頬を緩めた。 「パパ、会いに来てくれたの?」 「ああそうだ。ここには貴様しかいない。それ以外に地下に降りる理由がない」 「ははぁ。嬉しいよ。ねぇ、ボク、お腹空いた」 男は牢に鍵を差し込み、開いた。 ギィと、錆び付いた金属が軋む嫌な音がした。 男は入り口を潜り、隅のヒズミを目を細めて見下す。 とても冷たい目をしている。 「貴様には感謝している。貴様の存在が発覚した時には地方に飛ばされ、貴様の面倒も押し付けられたが、まぁそれはいい。おかげで私の地位は大臣にも匹敵するほどになれたでな」 「あは。嬉しいな。パパの役に立てたんなら、凄く嬉しい」 消え入りそうな声。 満足に動かない体を無理に動かし、父の顔を見上げる。 精悍な顔を私欲に歪ませた、その醜い顔を。 「ねぇ。お腹が空いたよ、パパ」
/499ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6151人が本棚に入れています
本棚に追加