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「……人間がな、貴様の所有権は自分達にあると言い出したのだ」
「……?」
「オレが貴様の力を使ったことに気が付いたのだろう。奴らは貴様を差し出すよう要求してきた」
「えっと……それじゃあそれを前みたいに、消しちゃえばいいの?」
「いいや、その必要はない」
男は腰に下げていた軍刀を抜き放ち、それをヒズミの首筋に添えた。
ヒズミの表情が急に凍り付く。
「争い事はもううんざりだ。面倒なことこの上ない。オレはな、このまま豊かに平穏に暮らしていければそれでいいのだ」
「……?」
「放っておくと戦争になりかねん。貴様を投入して直接存在を示せば、もう人間に対して言い訳はきかん。それは困る」
男は――本当に、心の底から嘆くように続けた。
「人間の作る酒はな、極上なのだ」
だから死ねと、男は言った。
戦争の引き金をこの場で殺し、死体を人間側に引き渡して人間の要求を不能にする。
もう死んでいた、と適当な理由をつければいい。それで人間は引き下がるだろう。
男が語ったことはそんな感じだった。
平たく言えば、つまりはこれだけのこと。
──酒が飲めなくなるから死ね。
たった、それだけのこと。
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