第十二章─歪みに至るための六つの傷風景─

19/49
前へ
/499ページ
次へ
「……人間がな、貴様の所有権は自分達にあると言い出したのだ」 「……?」 「オレが貴様の力を使ったことに気が付いたのだろう。奴らは貴様を差し出すよう要求してきた」 「えっと……それじゃあそれを前みたいに、消しちゃえばいいの?」 「いいや、その必要はない」 男は腰に下げていた軍刀を抜き放ち、それをヒズミの首筋に添えた。 ヒズミの表情が急に凍り付く。 「争い事はもううんざりだ。面倒なことこの上ない。オレはな、このまま豊かに平穏に暮らしていければそれでいいのだ」 「……?」 「放っておくと戦争になりかねん。貴様を投入して直接存在を示せば、もう人間に対して言い訳はきかん。それは困る」 男は――本当に、心の底から嘆くように続けた。 「人間の作る酒はな、極上なのだ」 だから死ねと、男は言った。 戦争の引き金をこの場で殺し、死体を人間側に引き渡して人間の要求を不能にする。 もう死んでいた、と適当な理由をつければいい。それで人間は引き下がるだろう。 男が語ったことはそんな感じだった。 平たく言えば、つまりはこれだけのこと。 ──酒が飲めなくなるから死ね。 たった、それだけのこと。
/499ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6151人が本棚に入れています
本棚に追加